" 私は誰にも知られずに狂い、やがて誰にも知られずに直っていた。"

太宰治「玩具」
@2 days ago with 17 notes

"ああ、なぜ僕はすべてに断定をいそぐのだ。すべての思念にまとまりをつけなければ生きて行けない、そんなけちな根性をいったい誰から教わった?"

太宰治「道化の華」
@4 days ago

"僕の小説が古典になれば、――ああ、僕は気が狂ったのかしら、――諸君は、かえって僕のこんな註釈を邪魔にするだろう。作家の思いも及ばなかったところにまで、勝手な推察をしてあげて、その傑作である所以を大声で叫ぶだろう。ああ、死んだ大作家は仕合せだ。生きながらえている愚作者は、おのれの作品をひとりでも多くのひとに愛されようと、汗を流して見当はずれの註釈ばかりつけている。そして、まずまず註釈だらけのうるさい駄作をつくるのだ。"

太宰治「道化の華」
@4 days ago

" ああ。この誘惑は真実に似ている。あるいは真実かも知れね。私は心のなかで大きくよろめくものを覚えたのである。けれども、けれども血は、山で育った私の馬鹿な血は、やはり、執拗に叫ぶのだ。
 ――否!"

太宰治「猿ヶ島」
@4 days ago

"わたしは自分のことを話していたんだ。この部屋に夜ひとりすわって、たぶん本を読んだり、考えたり、そんなことをしている男のことをな。ときにはなにか思いついても、そうだとかそうじゃねえとか言ってくれる者がねえ。たぶん、もしなにかが見えても、ほんとうにあるのかどうか、それすらわからねえだろう。ほかの者に向かって、おまえも見えるかときけねえんだ。だから、判断がつかねえ。判断の基準がなにもねえからな。ここにいると、わたしはいろんなものを見る。酒に酔ってるわけじゃねえ。眠って夢を見ているのかもしれねえが、それはわからねえ。だれかがいっしょにいたら、眠っていたと言ってくれて、はっきりわかるだろう。だが、ひとりじゃわからねえんだ」"

スタインベック『ハツカネズミと人間』
@1 week ago with 1 note

"一こと理屈を言いだしたら最後、あとからあとから、まだまだと前言を追いかけていって、とうとう千万言の註釈。そうして跡にのこるものは、頭痛と発熱と、ああ莫迦なことを言ったという自責。つづいて糞甕に落ちて溺死したいという発作。"

太宰治「玩具」
@2 days ago

"おのれの原稿が、編輯者の机のうえでおおかた土瓶敷の役目をしてくれたらしく、黒い大きな焼跡をつけられて送り返されたこともポンチ。おのれの妻のくらい過去をせめ、一喜一憂したこともポンチ。質屋の暖簾をくぐるのに、それでも襟元を掻き合せ、おのれのおちぶれを見せまいと風采ただしたこともポンチ。僕たち自身、ポンチの生活を送っている。そのような現実にひしがれた男のむりに示す我慢の態度。君はそれを理解できぬならば、僕は君とは永遠に他人である。どうせポンチならよいポンチ。本当の生活。ああ、それは遠いことだ。"

太宰治「道化の華」
@4 days ago

" 青年たちはいつでも本気に議論をしない。お互いに相手の神経へふれまいふれまいと最大限度の注意をしつつ、おのれの神経をも大切にかばっている。むだな侮りを受けたくないのである。しかも、ひとたび傷つけば、相手を殺すかおのれが死ぬるか、きっとそこまで思いつめる。だから、あらそいをいやがるのだ。彼等は、よい加減なごまかしの言葉を数多く知っている。否という一言をさえ、十色くらいにはなんなく使いわけて見せるだろう。議論をはじめる先から、もう妥協の瞳を交わしているのだ。そしておしまいに笑って握手しながら、腹のなかでお互いがともにともにこう呟く。低脳め!"

太宰治「道化の華」
@4 days ago

" 恥しい思い出に襲われるときにはそれを振りはらうために、ひとりして、さて、と呟く癖が私にあった。簡単なのだ、簡単なのだ、と囁いて、あちこちをうろうろしていた自分の姿を想像して私は、湯を掌で掬ってはこぼし掬ってはこぼししながら、さて、さて、と何回も言った。"

太宰治「思い出」
@6 days ago

"ある人が瘋癲病院を訪問する話を思い出した。その客が一人の患者に向って、「君はどうしてこんな所に這入っているのです」ときいて見た。
 「何、単なる意見の相違だよ」
 「そんなことはないでしょう」
 「いやそれに違いないのだ。己は世間の奴等がみんな気違いだと云うのだ、世間の奴等はみんなで己をそうだと云うのさ。しかし多勢には勝てんからね、万事多数決だよ」"

内田百閒「山高帽子」
@2 weeks ago with 8 notes