November 2010
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ところが頭のなかから、「ただ、一さいは過ぎて行きます」という文言がいっかな去らず、それどころか反対に増殖、トラックとかがバックするときに、「バックします、バックし...
– 町田康『どつぼ超然』
September 2010
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「不景気で売り上げが伸びたのは、収入が減ったり失業した男性のパイプカット手術くらい。ほとんどの病院が負債を抱えて、倒産しています。
– 堤未果『ルポ貧困大陸アメリカⅡ』
August 2010
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推理小説が興醒めなのは、それを書いた人がいる、っていうことだ。書いている人間には犯人やトリックは最初から判ってる。でも判ってないみたいに書いてある。自分で宝物を...
– 藤谷治『ぼくらのひみつ』
青空の背景にそびえる巨大な円形の鉄の塊を見上げながら、彼はフレームに配置されたゴンドラの数をかぞえてみた。ゴンドラは全部で四十六基だった。四十六?四十五であれば円...
– 磯崎憲一郎『終の住処』
June 2010
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ヒンメルスバッハが、チラシのぎっしり入ったスーパーのカートを押して、通りを歩いているのだ。一軒一軒の前で足を停め、郵便受けにチラシを差しこんでいる。郵便受けのない...
– ヴィルヘルム・ゲナツィーノ『そんな日の雨傘に』
自分にぐったり疲れた私は、きょう分別のあることをせめてひとつはしようと、意を決して床屋に行く。頭がくりひろげる埒もない考えから逃れるすべがないので、きょう二度目...
– ヴィルヘルム・ゲナツィーノ『そんな日の雨傘に』
ある日、家が忽然と消えてなくなったり、改築されたりすることがある。見る影もなく変ってしまい、腹が立って、私はそれっきりもう眼もくれなくなったりする。きょうはそうい...
– ヴィルヘルム・ゲナツィーノ『そんな日の雨傘に』
まだ種付けはしていないのだが、獣医のハワード・パドウィー博士によると、彼女は想像妊娠を経験中らしく、そのゴム製のアイスクリーム・コーンを子犬と信じこんでいる。彼...
– カート・ヴォネガット『ジェイルバード』
May 2010
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五十歳の誕生日を目前に控えて、わたしは同国人のくだすいろいろのばかげた決定に、ますます腹が立ち、不可解でならなかった。そしてある日とつぜん、わたしは彼らを哀れに...
– カート・ヴォネガット・ジュニア『チャンピオンたちの朝食』
わたしはトラウトに生きる価値もないような人生を与えたが、それと同時に、生きつづける鉄の意志も与えておいた。これは地球という惑星ではごくありふれた組み合わせである。...
– カート・ヴォネガット・ジュニア『チャンピオンたちの朝食』
短篇そのもののほうは、「踊るあほう」という題がついていた。トラウトの多くの小説とおなじく、それはコミュニケーションの悲劇的な失敗をテーマにしたものだった。...
– カート・ヴォネガット・ジュニア『チャンピオンたちの朝食』
ぼくはターニャに先日、長く抒情的な手紙を書きましたが、宛先の住所を間違って書いたような嫌な感じがする――つまり、『一二二』の代わりに、あてずっぽうに何か違う番号を...
– ナボコフ『賜物』
なんとかもっと簡単に。なんとかもっと簡単に。なんとかいますぐに!あと一押しで、すべてが分かるのに。神を探し求めること――どんな犬だってご主人さまを恋い慕うだろう...
– ナボコフ『賜物』
April 2010
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賢さのない勇気は、乱暴にすぎない。勇気のない賢さは、冗談にすぎない。
– ケストナー『飛ぶ教室』
ウサギは自己の精神をきたえなおすべく、読書にはげんだ。そして、コーヒーを飲んで競争にのぞんだこともあった。だが、インテリになりすぎたのも、よくなかった。走ってい...
– 星新一『ねむりウサギ』
March 2010
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思ってもらえるって、誰にー、て言われると本当、誰に、て感じなんですけど、例えばホテルのクロークの人とか、そう、今、こうやってる坂崎さんとか、マティアスさんとか、そ...
– 西加奈子『うつくしい人』
彼女たちから目を逸らそうと努力したのは、彼女たちに腹を立てている人たちの苛立ちを感じたくなかったためだ。それが自分に向けられたものでなくても、人の苛立ちを見ると...
– 西加奈子『うつくしい人』
「とんでもない」彼は言った。「君がコントロールしていないのだよ。まさにそれだからこそ、君をここに連れてきたのだ。君がここにいるのは、謙虚さに欠け、自己鍛錬を欠いて...
– ジョージ・オーウェル『一九八四年』
切り離されたトカゲの尻尾は果たしてトカゲなのか?俺の過去は俺の一部であったはずだ。しかし過去は過去になった時点で本当は俺から切り離されている。俺の過去。こういう...
– 前田司郎『逆に14歳』
愛というものは空の箱で、そこにいつも何かを入れたがる。箱が空だとたまらなく寂しいように出来ているんだ。だから人はそこに何か出来るだけ良い物を入れたいと思う。...
– 前田司郎『逆に14歳』
そこに愛があれば全てが許されるというような風潮を感じることもあったが、大きな罠であるよ。俺は老人だから言えるが、若い人は勘違いしがちだから気をつけて欲しい。愛が...
– 前田司郎『逆に14歳』
こいつは自分の可愛らしい表情を知っているのだ。どうすれば可愛らしく見えるあ知っているのだ。
俺も自分がどういう表情をすれば可愛らしく見えるか知っていた。...
– 前田司郎『逆に14歳』
俺は意地になって、もう誰も俺がなんで何のために意地を張ってるかなんて覚えてなくっても、意地を張り続けて、自分でも忘れてるのに意地だけ覚えていてそれで色々損をするこ...
– 前田司郎『逆に14歳』
壁一面に白い花が飾ってあって、その真ん中に笑顔のぺーちゃんの遺影が飾られている。
写真が一般的になる前は遺影はどうしていたんだろう。...
– 前田司郎『逆に14歳』
まだ誰も言っていないことだと思うけど、地獄の定義って、そこにいる人たちが、ここは地獄なんだってことに気づかないことじゃないかしら。お前たちは地獄にいるって神に言...
– デニス・ジョンソン『煙の樹』
「近づきすぎると、限度をわきまえないって言われそうで。押しつけがましいとか、情緒的だとか……。でも、後ろに下がってれば、無関心なやつだと思われるだろうし、とにかく...
– アン・タイラー『ここがホームシック・レストラン』
僕たちは宗教から離れてしまった。...
– ポール・トーディ『イエメンで鮭釣りを』
January 2010
2 posts
「……これがこの人達の、日常、なんだなって思った瞬間に……一瞬めまいがして……サティの商品の棚がこうどこまでも続くから、それでかな、永遠にこんな感じって感覚がぶわ...
– 本谷有希子『偏路』
「うちがよそより苦しい状況だってことくらい分かるだろ?お父さん、もう働きすぎてヒョロッヒョロだよ。あんたは失踪してたから知らないだろうけど、ほんとね、お父さん一時...
– 本谷有希子『偏路』
December 2009
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僕は前にも君のことを考えたくらいだ……どうせ君は結局そういう事で終わる人だよ!してみると、おそかろうが早かろうが、同じことじゃないか?あそこには、君、なんていうか...
– ドストエフスキー『罪と罰』
僕が罵倒するのは、彼らがでたらめを言うからだと、そう思ってらっしゃるんですね?ばかばかしい!僕は人がでたらめを言うのが好きなんですよ!でたらめってやつは、すべての...
– ドストエフスキー『罪と罰』
僕は宣言するが、君たちは一人のこらず、やくざなおしゃべりか、ほら吹きばかりだ!君たちはほんのちょっと苦しい事ができると、まるでめんどりが卵をかかえ込んだように、そ...
– ドストエフスキー『罪と罰』
November 2009
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私は誰にも知られずに狂い、やがて誰にも知られずに直っていた。
– 太宰治「玩具」
一こと理屈を言いだしたら最後、あとからあとから、まだまだと前言を追いかけていって、とうとう千万言の註釈。そうして跡にのこるものは、頭痛と発熱と、ああ莫迦なことを言...
– 太宰治「玩具」
ああ、なぜ僕はすべてに断定をいそぐのだ。すべての思念にまとまりをつけなければ生きて行けない、そんなけちな根性をいったい誰から教わった?
– 太宰治「道化の華」
おのれの原稿が、編輯者の机のうえでおおかた土瓶敷の役目をしてくれたらしく、黒い大きな焼跡をつけられて送り返されたこともポンチ。おのれの妻のくらい過去をせめ、一喜一...
– 太宰治「道化の華」
僕の小説が古典になれば、――ああ、僕は気が狂ったのかしら、――諸君は、かえって僕のこんな註釈を邪魔にするだろう。作家の思いも及ばなかったところにまで、勝手な推察を...
– 太宰治「道化の華」
青年たちはいつでも本気に議論をしない。お互いに相手の神経へふれまいふれまいと最大限度の注意をしつつ、おのれの神経をも大切にかばっている。むだな侮りを受けたくない...
– 太宰治「道化の華」
ああ。この誘惑は真実に似ている。あるいは真実かも知れね。私は心のなかで大きくよろめくものを覚えたのである。けれども、けれども血は、山で育った私の馬鹿な血は、やは...
– 太宰治「猿ヶ島」
恥しい思い出に襲われるときにはそれを振りはらうために、ひとりして、さて、と呟く癖が私にあった。簡単なのだ、簡単なのだ、と囁いて、あちこちをうろうろしていた自分の...
– 太宰治「思い出」
わたしは自分のことを話していたんだ。この部屋に夜ひとりすわって、たぶん本を読んだり、考えたり、そんなことをしている男のことをな。ときにはなにか思いついても、そうだ...
– スタインベック『ハツカネズミと人間』
ある人が瘋癲病院を訪問する話を思い出した。その客が一人の患者に向って、「君はどうしてこんな所に這入っているのです」ときいて見た。...
– 内田百閒「山高帽子」
その時、豹は向うの黒い土手の上で、痩せた女を喰っていた。その女は私に多少拘り合いのある女の様な気がして来た。私は戸の細目から首をのぞけた。豹がその女を見る見る内に...
– 内田百閒「豹」
私は段段悲しくなって来て、涙が何時迄も止まらずに流れた。そうして、こんなことを考えた。眼玉の中から出る涙と、心の奥から出て来る涙とある。心の奥から出た涙でも、心...
– 内田百閒「波止場」
私は誰とも議論をしたのではないのに、独で腹を立てていた。神がいると云う者と、いないと云う者との間には、そのいるとかいないとか云う言葉が、食い違っているんだ。自分が...
– 内田百閒「白子」
なにしろ赤い箱がいいし、板が黄色なのもいい。そこには小さな男の子がハンマーを振りおろす絵がついていて、「Brio」の赤い字が効いている。ペグもすべて黄色で、板を...
– アーレン・ロー『ナイーヴ・スーパー』
そもそも豚は人の餘り物を食ふ立ち場にゐる筈なのに、今はかうしてその初穂を私のお膳に割愛してくれた、と考へた。更に溯れば、おからは人間が食ふ豆腐のかすの餘り物かも知...
– 内田百閒『おからでシャムパン』
October 2009
27 posts
幽霊のやうに
まじめに永久に
人を咀ふ事が出来たらばと思ふ
– 夢野久作『猟奇歌』
「つまりお前達二人はスイートポテトーであったのじゃナ」
硝子戸の外の闇の中で二三人クスクスと笑った。...
– 夢野久作『いなか、の、じけん 抄』
しかし、よく考えてみれば、諸君、二二が四というのは、もう生ではなくて、死の始まりではないだろうか、少なくとも人間は、なぜかいつも二二が四を恐れてきたし、ぼくなどは...
– ドストエフスキー『地下室の手記』