" ウサギは自己の精神をきたえなおすべく、読書にはげんだ。そして、コーヒーを飲んで競争にのぞんだこともあった。だが、インテリになりすぎたのも、よくなかった。走っている途中で、ギリシャの哲学者の、ウサギは前にいるカメに追いつけないとの説が頭に浮かんできた。カメがいた地点まで行った時には、カメはその先にいる。そこにたどりついた時には、カメはさらに先とかいう理論だ。
 そういえば、その通りだ。永久に追いつけないことになる。こんなふしぎなことがあっていいものだろうか。ウサギは腰をおろし、説の誤りを発見しようと、ひたすら長い瞑想にふけった。そのあいだにカメに追い抜かれ、いねむりをしていたのと同じ結果になった。"

星新一『ねむりウサギ』
@1 year ago