"ぼくはターニャに先日、長く抒情的な手紙を書きましたが、宛先の住所を間違って書いたような嫌な感じがする――つまり、『一二二』の代わりに、あてずっぽうに何か違う番号を書いたような気がするのです。前にも一度、同じようなことがあったのですが、どうしてこんなことが起こるのか、わからない。住所を何度も、かぞえきれないほど何度も、機械的に、正しく書いているのに、後になってはっと気がついてその住所を意識して見ると、自身がなくなっていて、見知らぬ住所のように思える。とても不思議です……。ほら、потолок(天井)が、пa-тa-лок、pas ta loque、пaтологという風に変わっていって、ついに『天井(パタローク)』だったものが、『ロコトープ』とか、『ポコトール』といった、実在しないまったく無意味で奇怪な言葉になってしまったりとか。いつかきっと生きること自体がすっかりそんな風になるんだろうと思うんです。"

ナボコフ『賜物』
@2 years ago