" まだ種付けはしていないのだが、獣医のハワード・パドウィー博士によると、彼女は想像妊娠を経験中らしく、そのゴム製のアイスクリーム・コーンを子犬と信じこんでいる。彼女はそれをクロゼットの中へ隠す。それをくわえて、メゾネットの階段を昇り降りする。乳の分泌さえはじまった。いま、それを止める注射を受けているところだ。
 天はこの犬をなんと激しくも真剣にならせたのだろうか――たかがゴム製のソフトクリーム、茶色のゴムのコーンとピンク色のゴムのアイスクリームでしかないものに。それとおなじく、このわたしも、なんとばかばかしいガラクタへの執着を演じつづけてきたのだろうかと、思わずにはいられない。まあ、それはどうでもよい。この世にはわたしたちの存在理由はない――わたしたちがそれを発明しないかぎりは。それだけはたしかだ。"

カート・ヴォネガット『ジェイルバード』
@1 year ago